『ふあんていもよい一部』

職務経歴をまとめていたりすると、いやでも精神科に通っていた頃の一番つらかった時期を思い出す。


長いうつ状態の後の、制御しきれないエネルギーが自分の中に勝手に入ってくる感覚。
頭の中がすさまじい勢いで考えが止まらなくなる。
もしかすると自分が壊れつつあるのかもしれないと恐ろしくなる。
もう社会の中で生きていくとかは無理なんじゃないだろうかと思う。
やってみたいこと、いろいろあったんだけどなぁ・・・。と悲しくなる。


担当業務を全てストップさせ、だいぶ落ち着いた後も、発作的にエネルギーが爆発するように流れ込んできて制御できなくなることが度々あった。
友人にSOSの電話をする。芸術系なお仕事をするその人は、「そんなエネルギーが出てくるなんて、羨ましかったりするんだけどねぇ」という。
僕は反射的に「こんなエネルギーをくれなんて誰かに頼んだ覚えなんてない。こんなエネルギー要らない。」と泣きそうになりながら訴えた。


・・・そんなことを思い出していると、またいつかあの状態に入ってしまうときが来るんだろうか、
ほんとうにこの希望職種でこれから先やっていけるんだろうか、
漠然とした不安に押しつぶされそうになる。


そんな折、昨日、職場の友達からメールが来て「ライブがあるから行かないか」と。
たぶん知人もけっこう来ている。

「あんまりたくさんの人に会いたい気分じゃないから、やめとく」とメール返信。

チャットが来た。
【彼女】「だいじょうぶ、なんかあった?」と。

【僕】「いや、なんかあったとかじゃないんだけどさ・・・」と説明に困る。


気分が落ちてるときは、人を避ける。
明るく振舞うのに疲れる。普通にできないことにみじめさを感じる。
ほんとは、一人はやだ。さみしい。つまらん。
でも、めんどくさい人間になってる自分に人をつき合わせてはいけない。

うまく伝えられない。ちょっと書いてみては消したり。


【彼女】「なんか、推敲してるでしょ?説明しにくい?」

・・・するどいな、アナタ。


【彼女】「いまからそっちに行こうか?」

その気遣いが身に染みて嬉しい。
その気遣いの暖かさにちょっと温まりたい・・・。
でも、こんなめんどくさい人間につき合わせてはいけない。
重たいものを渡してはいけない。
だいじょうぶ、って言っとけ。たいしたことないって。
ちょっとした葛藤。


【彼女】「じゃ、今から行くから」
来た。
外で昼を食べながらちょっと話す。
彼女は、僕がカウンセリングや精神科に通っていたことを知っている。


【僕】「落ちてるときって、めんどくさい人間になってるから、それに人をつき合わせて疲れさせたくなくって」
【彼女】「いや、それ、アナタ自身が疲れるからいやなんじゃないの?」

ぐさ。そう、多分、ほんとは、人のためと言いつつ自分のためなのだ。自分が疲れるからイヤだから。


自分の中での過剰な自意識との調整に疲れるから。
気分が落ちてると、自分がどうしようもなく思えてしょうがない。人の意図を読み取るアンテナの感度が下がる。自分が悪く思われていると捉える方向にゆがむ。挙動不審になる。会話で声が小さくなる。「え?」と聞き返される。いや、これは「はい?何言ってんだ?」っていう否定じゃない、単なる聞き返しだ。
そんなめんどくさい問答を自分の中でやらなければいけないこと自体にみじめになる。


返しを期待されるからかいが飛んでくる。
沈黙は、いかん。気のない相槌も、いかん。気の利いた返し・・・浮かばん。
これじゃ挙動不審だ。うぅーーんと・・・。


だいじょうぶ?心配をされる。。
ふむ、あぁ、ダメだ、この人にはこの感覚はわからない。
相手の想定範囲に合わせてあたりさわりないことを言う。
アドバイスを受ける。ふむふむ、と相槌。
それか、体調不良を装う。
何をやってるんだか。
そんなことをしているから、疲れる。
自分の荒唐無稽さに落ち込む。


昼食は、それ以上あまり突っ込んだ話をすることなく、とりとめもないことを話して終わった。
彼女は、誘い水はかけてくるが、こちらが話したくなさそうなことを察すれば、やんわりと次の話題に入っていく。

面と向かっては言いにくかったので、後でチャットで
「いやさ、精神科に通ってた頃のこととか、思い出しちゃってね、気分が上がらないのだよ」と伝えておく。



「あなたのふあんていなところは、きみをつくっているよい一部だとして、認識してます。ので安心していいよ。」


その一言がどれだけ嬉しい一言か。
君は「なんもしてないよー」と言うけれど、
僕は「おぉ、さんくす」と軽く流してしまったけど、
ほんとはモニタのこちら側でウルウルとしていたのだよ。

ありがとう。